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福岡地方裁判所小倉支部 昭和29年(ワ)333号 判決

参加人 福岡県労働金庫

原告(脱退) 旭硝子株式会社牧山工場労働組合

被告 青田伸夫 外一二六名

主文

原告が被告等に対して夫々有する別紙第二記載の組合徴収金債権は参加人においてこれを有することを確認する。被告等は参加人に対し夫々別紙第二総徴収額欄記載の各金員を支払うべし。

訴訟費用は原告被告等間、参加人被告等間に生じた分すべて被告等の負担とする。

この判決は第二項に限り参加人において被告等のため別紙第二保証金額欄記載の金額を担保に供するときは仮にこれを執行することができる。

事実

参加人訴訟代理人は「原告が被告等に対して夫々有する別紙第二記載の組合徴収金債権は参加人においてこれを有することを確認する。被告等は夫々参加人に対し別紙第二総徴収額欄記載の金員を支払うべし。訴訟費用は被告等の負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

原告(脱退)旭硝子株式会社牧山工場労働組合(以下原告組合と略称する)は昭和二十八年九月十日より旭硝子株式会社と定員増加等の要求事項をめぐり争議状態に突入し同年十月二十五日争議は妥結した。

当時の旭硝子株式会社牧山工場労働組合規約第四条によれば大会は斗争委員会の設置を決定することができ、その運営は別册斗争要綱によるとされており、これに基く旭硝子牧山工場労働組合斗争要綱(規約第四条別册)第五項では斗争委員会の権限の一つとして大会より委任された議決権を有することを規定しているのであるが、昭和二十八年八月十二日の原告組合大会は斗争委員会の設置を決定すると共にその設置の時期は執行委員会に一任し、なお組合規約第二十四条所定の大会の権限中第三、第六、第十、第十一号を除く一切の権限を斗争委員会に委任した。(従つて斗争委員会が大会より委任された権限のなかには組合規約第二十四条第四号臨時組合費徴収の議決権も含まれる。)而して同年八月十七日執行委員会は斗争委員会の設置を決定したのであつて、この原告組合斗争委員会は同年九月十日争議突入の日に第十一回斗争委員会を開き全組合員から別紙第三徴収額算定方法に従い徴収金を徴収することを議決した。

この徴収金に関する斗争委員会の議決は同年九月十一日の第二回総会において報告された。

叙上八月十二日の原告組合大会における決議は当時の代議員総数二百八十名中出席者百九十名そのうち百八十名の賛成投票を以て可決されたものであり、また同年九月十日第十一回斗争委員会における叙上決議は斗争委員の定員二十二名のところ全員出席しその全員一致を以て可決されたものであつて、以上いずれも組合規約に基き適式に成立したものであるから原告組合員はすべて右の徴収金を原告組合に納入する義務を有するものである。

而して前記の如く原告組合が争議に突入して後同年十月七日より一部組合脱落者は組合の指令に反して操業を始め、被告等も遂次原告組合を脱退して新に組織された旭硝子株式会社牧山工場従業員組合に参加して行つたのであるが、被告等はいずれも右昭和二十八年十月七日迄は原告組合の組合員であつて原告組合の指名により争議中保全要員として保全作業に従事していたものであつて、被告等が保全要員として夫々就業した日数、欠務した日数、基本給及びこれ等に基き別紙第三徴収額算定方法により算出した各自徴収金額は別紙第二記載のとおりである。(これは昭和二十八年十月七日以後の分は計上していない。)これは被告等が原告組合に所属していた間に生じた原告組合に対する債務であるが原告組合の数次の催促にも拘らずこれが納入をなさないので、原告組合は右被告等に対してこれが請求訴訟を起し当庁昭和二十九年(ワ)第三三三号組合徴収金請求事件として繋属した。

然るに参加人は原告組合から昭和二十九年十二月二十三日右の被告等に対する徴収金支払請求権の譲渡を受け同月二十四日原告組合は各被告等にその旨債権譲渡の通知を完了した。

よつて参加人は右徴収金支払請求権は参加人に帰属することの確認を求めると共に被告等に対しこれが支払を求めるため参加の申出に及んだものである。と述べ、被告等の主張事実はすべてこれを否認した。(証拠省略)

被告等訴訟代理人は「参加人の請求はこれを棄却する。訴訟費用は参加人の負担とする」との判決を求め、答弁として参加人の主張事実中原告組合が昭和二十八年九月十日より旭硝子株式会社と定員増加等の要求事項をめぐり争議状態に入り同年十月二十五日争議妥結を見るに至つたこと、当時の原告組合規約第四条によれば大会は斗争委員会の設置を決定することができること、昭和二十八年八月十二日の組合大会が斗争委員会の設置を決定し、設置の時期が執行委員会に一任されたこと、執行委員会は同年八月十七日斗争委員会の設置を決定したこと、被告等が昭和二十八年十月七日迄原告組合の組合員であつて原告組合の指名により争議中保全要員として保全作業に従事していたこと、原告からその主張の如き本件債権譲渡の通知をその頃被告等が受けたことは認めるが、原告組合の斗争委員会が同年九月十日その主張の如き徴収金を徴収する議決をなし同年九月十一日の原告組合第二回総会においてその報告をなしたことは不知、その他の参加人主張の事実はすべてこれを否認する。と述べ、

一、なお本件組合徴収金は原告組合規約に反して徴収されるものである。

すなわち組合員の経費に関する義務は規約第二十二条に限定され組合員は同条以外において経費負担の義務がないのであるが、本件臨時組合費は同条に定める組合費その他の機関の決定による経費に該当しないものである。

また原告組合の最高機関は規約第二十三条で表示する大会であるが組合の規約により大会のみに専属している権限はいかに組合大会の決議とはいえこれを他に委譲することは許されない。規約第二十四条に掲げる事項は組合大会においてのみ可能であり、組合大会の決議以外の何者によつてもこれをなすことは許されないものである。(通常組合費の値上はたとえその額が僅々十円でも一般投票によつて決定されることを考え合せてみてもこの間の事情が理解されよう。)まして本件徴収金支払義務は組合員の義務の中でも最も重要なものに属するから尚更である。故に大会の直接決議によらない本件徴収金は組合の性質と組合の規約に反したものと言はざるを得ない。

更に原告組合は規約第二十四条第四号によつて臨時組合費として本件徴収金を請求しているが臨時組合費も亦組合費であるから、権限ある機関によつて決定せられそれが組合予算の内容となり当然決算にあらわれなければならない。而も五万円以上の臨時出費は当然規約第二十四条第三号に該当するものであるから本件徴収金は組合規約に違反するものである。

二、次に本件組合徴収金額は組合の組合員に対する公平と平等の原則に反し一部組合員につき著しい差別待遇をなすものである。原告組合において従来臨時組合費を徴収した事例はあるがその場合金額は組合員一率平等で、而も通常組合費を超過する額について徴収されたことはない。ところが本件徴収金額は甚しく不平等で被告等一部組合員に対し甚しく不当過重な取扱をなしている。即ち争議要員及び保全要員を除く一般組合員の徴収金は一人一日十円一率であるが、被告等保全要員と争議要員の場合の時間収入を比較すると別紙第四の如く殆ど変らず、而も保全要員は就業規則により拘束された時間保全業務に従事しなければならず、その中には板硝子引揚作業のように通常作業より労働量の増加する場所もあり、争議要員との労働量の釣合からしても不平等になつて来る。なお保全要員には生活資金の貸出もなされなかつたことは別紙第五の如く当該月度における生活費が争議要員よりも少くなる者を生じ当を得ない。被告等は原告主張のように保全要員であつたがスト解決後直ちに操業できるように生産施設、原燃材料、製品等を保全することは労働協約に基く義務であつてこの義務は会社に対するものだけでなく全組合員の利益のためにも必要である。特に化学工業を営む会社にあつては施設の荒廃は操業再開に致命的な影響を及す。従つて被告等は義務として就業しその当然の対価として賃金を得たからと言つてそのことのために他の組合員と差別待遇され過当な徴収金を賦課されることは組合員の平等と公平の原則からして許されるべきではない。仮に原告主張のような決議が一方的になされたとしても被告等の同意がない以上何等被告等を拘束するものではない。

三、原告組合は当時本件臨時組合費を徴収する理由と必要がなかつたものであるから本件徴収金決定はその効がない。原告組合は斗争経費、ピケ隊員の辨当代の財源として本件徴収金を請求しているがこれ等は当然斗争積立金を以てまかなうべきものである。昭和二十八年八月十二日の大会において斗争経費は何によつてまかなうかとの組合員の質問に対し、原告組合の責任者は斗争積立金を以てまかなうと答弁しておる事実から推しても本件臨時組合費の徴収は不必要なものであつたのであり、ピケ隊の費用を一部の者に課することはできない。

以上述べて来た諸事由によつて被告等は本件組合徴収金請求に応ずる義務なきものである。

四、本件債権譲渡は譲渡人譲受人共に真意に背いた仮装行為であつて実質において何等債権譲渡の事実は存しない。すなわち原告組合は本件債権が他から差押えされる危険を感じこれを避けるために参加人に債権譲渡の形式で保護方を要請し、参加人は原告組合に対して支払未済の債権を持つているので何れは自己の債権の支払を受ける希望をも含んでその手段として本件債権譲渡を仮装したのであつて譲渡人譲受人共に債権譲渡の真意を有していない。

五、本件債権は組合の資産であり、原告組合の現規約第二十四条第五号によれば組合の最高機関である総会のみがその処分権限を有する。然るに本件債権譲渡については総会は開かれていない。

また本件債権譲渡を決議したのは斗争委員会であるが同委員会は本件債権の処分権能を有しない。組合規約上大会の権限を斗争委員会に委譲することは可能であるが資産の処分の如き総会の権限は絶対に委譲できないのである。故に本件債権譲渡は組合の規約に反した違法の処置と言わねばならない。

況や本件債権譲渡は若干の幹部のみで昭和二十九年十二月二十三日個人的に参加人に対し話を持ち出し、同月二十七日第三十一回斗争委員会において事後報告したのみであるからその承認も追認もあり得ない。

六、参加人には第四、記載の通り初から訴訟参加の意思が存在しておらない。右債権譲渡の形式をふむ際に参加申立の内容も性質も全く知らされず、参加人も不用意のうちに申立手続書類に捺印して事務員が之を交付したのであつて参加人の権能ある機関において訴訟参加を決定したのではない。故に訴訟参加そのものが合法的な裏付を持つていない。

以上の点からして参加人の請求はその理由がないと附陳した。(証拠省略)

原告は昭和三十年一月二十九日の口頭弁論において被告等の同意を得て本件訴訟より脱退した。

理由

被告等は参加人の本件参加申立手続は参加人において訴訟参加の真意なくしてなされたものであるから不適法であると主張するが参加人代表者理事長江口義美の弁護士大家国夫、同諫山博に対する訴訟代理委任状、証人中倉正城の証言並びに参加人代表者江口義美本人訊問の結果によれば本件参加申立は参加人代表者理事長江口義美から適法に授権された訴訟代理権に基き参加人訴訟代理人弁護士大家国夫からなされたものと認められその間何等の瑕疵も存在しない。

よつて按ずるに原告組合は昭和二十八年九月十日より旭硝子株式会社牧山工場と定員増加等の要求事項をめぐり争議状態に突入し同年十月二十五日争議は妥結するに至つたこと、当時の原告組合規約第四条によれば大会は斗争委員会の設置を決定することができるとされておるが昭和二十八年八月十二日の原告組合大会は斗争委員会の設置を決定すると共にその設置の時期を執行委員会に一任し、これにより執行委員会は同年八月十七日斗争委員会の設置を決定したことは当事者間に争がない。

成立に争がない甲第一号証の一、同第二号証、証人宮川清城、同宮原次郎吉、同山中昭夫、同石井早雄(第一回)、同岩村光雄の各証言、脱退原告代表者金子勇本人訊問の結果を綜合すると、組合規約第四条はこの組合は必要により斗争委員会を設けることができる。斗争委員会の設置は大会の決定によりその運営は別册斗争要綱によると規定しており、別册斗争要綱第五項は斗争委員会は規約に定める執行委員会の権限と大会より委任された議決権を有する。但し大会の委任事項はその都度大会で定めると規定しているのであるが、前叙昭和二十八年八月十二日の原告組合大会は当時の代議員総数二百八十名中その二分の一以上に相当する百九十名余の出席があり、出席代議員の過半数の賛成議決により組合規約第二十四条に定める大会の諸権限中第三、第六、第十、第十一号を除く一切の権限(従つて同条第四号臨時組合費徴収の議決権を含む)を斗争委員会に委任することを決定した。

斯くて原告組合斗争委員会は昭和二十八年九月十日第十一回斗争委員会を開き、叙上組合規約により適式に大会より委任された臨時組合費徴収の議決権に基き全組合員から別紙第三徴収額算定方法に従い徴収金を徴収することを議決した。この斗争委員会の決定は構成員二十二名全員が出席し、全員一致の賛成を以てなされたものである。以上の事実が認められる。

証人森永四十三、同上荷田定雄の各証言中右認定に反する部分は措信し難く他に右認定を左右するに足る証拠はない。

以上の事実からすると原告組合の組合員はすべて前叙徴収金を原告組合に納入する義務を有するものと言わねばならない。

而して被告等がいずれも昭和二十八年十月七日迄原告組合の組合員であつたこと及び原告組合の指名により争議中保全要員として保全作業に従事したことは当事者間に争のない処であり、また成立に争がない甲第二号証、甲第五号証の一、証人石田政雄の証言によりその成立が認められる甲第五号証の二、証人石井早雄(第二回の証言によりその成立が認められる甲第五号証の三、証人石井早雄(第二回)、同森永四十三、同加藤春美、同石田政雄の各証言を綜合すれば、被告等が第和二十八年十月七日以前において保全要員として夫々就業した日数、欠務した日数、基本給等は夫々別紙第二に示す通りであることが推認されるから、是等に基き別紙第三の徴収額算定法により算出した別紙第二掲記の各自徴収金額は被告等が原告組合に所属していた間に生じた原告組合に対する債務であつて各自その支払義務を有するものである。

被告等は本件組合徴収金は組合規約第二十二条所定の組合員の義務のいずれにも当らないとか組合の最高機関である大会の権限は他に委任することが許されない、臨時組合費の徴収は組合員の最も量大な義務に属するから必ず大会の直接決議によらねばならない、或は本件徴収金は組合規約第二十四条第三号の関係で組合規約に違反する等主張するが、本件徴収金が組合規約第二十二条の規定に副う組合員の義務であることは規定自体からして明かであり、原告組合の大会がその議決権を斗争委員会に委任し得ることも亦当時の原告組合規約第四条、同斗争要綱第五項の明かに定めている処であり、又臨時組合費の徴収が組合員の義務に重大な影響を及すということはこれが議決権を他に委任するについては慎量な考慮が必要であるとする理由にこそなれこれを禁絶すべきであるとする根拠となるものではない。而して組合規約第二十四条第三号予算及決算(一件五万円以上の臨時出費)と同条第四号臨時組合費の徴集とはこれを区別し別個に取扱い得るものであり且つ争議中その必要も存し得るからこの点に関する組合規約違反の徴収であるとの被告等の非難は当らない。

被告等はまた本件組合徴収金額は組合の組合員に対する公平と平等の原則に反し被告等一部組合員につき著しい差別待遇をなすものであ。或いは原告組合は当時本件臨時組合費を徴収する理由と必要がなかつたから被告等はその支払義務がないと主張するけれども未だこれらが権利の濫用として排斥されるべき程度のものと認めるに足る証拠がないのでその主張は採るを得ない。

成立に争がない丙第一号証、証人金子勇、同宮川清城、同中倉正城の各証言、参加人代表者江口義美本人訊問の結果を綜合すれば原告組合は昭和二十九年十二月二十三日前叙被告等に対する組合徴収金債権を参加人に譲渡した事実が認められるのであつて而も原告よりの債権譲渡の通知を被告等がその頃受領したことについては当事者間に争がない処である。よつて前叙組合徴収金債権は参加人の有するところであつて被告等は参加人に対し夫々右徴収金を支払うべき義務がある。

被告等は右の債権譲渡は譲渡人、譲受人共に真意に背いた仮装行為である旨主張するがこれを認めるに足る証拠はなく却つて前掲各証拠によれば右譲渡の事実を認めるに十分である。

更に被告等は本件債権譲渡は組合の資産の処分であるから現組合規約上総会の議決又は承認を受けねばならないのにこれがなされておらない或いは本件債権譲渡を決議した斗争委員会はその処分権能を有しないから組合規約に反した違法の処置と言わねばならない旨主張するが結局それは組合の内部関係の問題に過ぎず組合代表者の対外的代表行為の瑕疵となるものではない。

以上述べたところから参加人の本訴請求はすべて正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松山安馬 宮脇辰雄 山口定男)

別紙第一、第二、第三〈省略〉

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